建物を建てる為の図面と言えば、「設計図」。
一般的にはそう連想する人が多いのではないでしょうか。
「設計図」は、いろんなジャンルで使われます。
車の設計図、ロボットの設計図の様に機械系の設計図。
橋やトンネルのような土木系構築物でも設計図はあります。
建物を建築する際に、設計図は必須です。
しかし、設計図だけでは建物は建てられないという事です。
設計図をもとに、そこから実際に建物を建てる為に作成する図面があります。
それらを総称して、一般的に「施工図(せこうず)」と呼びます。
「躯体図」も、その施工図の中の一つです。
では、「躯体図」とはどんな図面なのでしょうか。
建物の骨格を造る為の図面が躯体図
躯体(くたい)とは、建築物の構造体という意味です。
鉄筋コンクリート造の場合、鉄筋とコンクリートで造る構造体の事を意味します。
現場では、設計図にある構造図をもとに構造体を造るわけですが、構造図だけを職人さんに渡しても建物は造れません。
職人さんが実際に現場で作業が出来る様に作成するのが、躯体図です。
躯体図は工程ごとに作成する
躯体図を作成する時、建物全ての躯体図を一度に作成するわけではありません。
鉄筋コンクリート造の場合、最初が「基礎伏図」という基礎の躯体図になります。
現場の進捗状況に合わせて順番に躯体図を作成していきます。
通常、基礎→土間(1階床)→1階躯体と進み各階の躯体図を最上階まで作成します。
もちろん、地下階などがある建物であれば地下の躯体図も必要です。
現場監督は、工程に遅れが出ない様に躯体図を作成し、設計担当者に承認を貰ってから職人さんに渡さなくてはいけません。
躯体図は型枠大工、鉄筋工、各設備工、電気工などが必要
躯体図を必要とする職人さんで一番重要なのは、型枠大工です。
型枠大工は躯体図をもとに生コンクリートを打設する為の型枠を予め製作しなければいけません。
現場で型枠の組立を行う前に製作を完了させていないといけないので、なるべく早く型枠大工に躯体図を渡してあげましょう。
また、鉄筋工や設備(給排水、ガスなど)工、電気工にも渡す必要があります。
躯体図は、構造図と意匠図を反映させた図面
躯体とは、建築物の構造体であると説明をしました。
しかし、躯体図は、設計図の構造図だけでは作成しません。
設計図には、意匠図(いしょうず)という図面があります。
意匠図とは、建物のデザイン(間取り、窓などの配置、仕上げの種類など)を表現した図面です。
壁に窓を取付ける場所には、窓を取付ける為の開口が必要です。
外壁にはタイルを貼るのか、塗装なのか、コンクリートの打ち放し仕上げなのか。
タイルであれば、「タイル割図」という図面をもとに躯体の大きさを調整する必要があります。
もしも、意匠図を反映させないで構造図だけで躯体を造ってしまったら、構造的には問題はありませんが、設計士がデザインした通りの建物にはなりません。
つまり、躯体図とは最終的な仕上げまで考慮した状態で作成しなくてはいけない図面なのです。
躯体は、ミリ単位の仕事を要求するもの
これは躯体だけではなく、建設物を建てる時の常識の話ですが、建設現場では、寸法(長さ)を表現する単位はmm(ミリメートル)です。
建設現場で「10ズレている」と言ったら、10cmではなく、10mmの事です。
なので、躯体図の表記もmm単位で表現されます。
例えば、建物の1階分の階高が2m75cmあるとしたら、図面には2750と表記されます。
もちろん、現場でも「にせんななひゃくごじゅう」と言います。
現場でcm単位で寸法を言う人がいたら、建設現場慣れしていないと思われますので気を付けましょう。
10センチではなく、「100」。1メートルではなく、「1000」と表現するのが建設現場です。
躯体図を間違えたら現場は大変
鉄筋コンクリート造の建設現場で、躯体図の作成は現場監督にとって重要な仕事の一つです。
先ほど説明したように、躯体図は最終的な仕上げまで考慮した状態で作成します。
つまり、躯体図に間違いがあるという事は、その後の仕上げにも影響が出るという事です。
取付けるはずの窓が付けられないとか、タイルが計画通りに貼れないなどの支障が出てしまいます。
構造に問題がないような間違いなら、後でのリカバリーは可能かもしれません。
しかし、構造的に問題があるような間違いが発生した場合はおおごとです。
もちろん、そのまま工事を続ける事は出来ません。
適正な躯体に修正する必要があるので、コンクリートを打設する前に発覚したのなら、すぐに修正を行います。
すぐに、と言ってもそんな簡単な話ではないので、工程に大きな影響が出るかもしれません。
躯体図の間違いによる現場での手直しとなれば職人さんは悪くないので、その分発生した手直し費用もかかります。
もう、踏んだり蹴ったりです。
更に、コンクリートを打設した後に発覚しようものなら最悪です。
コンクリートを斫(はつ)り取って直すとなるととんでもない話です。
故に、躯体図の作成は慎重に行わないといけません。
型枠大工さんが早く欲しいと言っているからといって、中途半端な図面は渡さない事です。
もしもどうしてもと言うならば、変更になる可能性のある場所を伝えてから渡しましょう。
コンクリートの数量(ボリューム)は躯体図で求める
基礎や各階の生コンクリートを打設する際、生コンクリートが何立米(なんりゅうべい)必要なのか。
現場監督は理解して発注しなければいけません。
躯体図は、型枠大工さんが生コンクリートを流し込む為の型枠を製作する為の図面なのです。
なので、必然的に躯体図でコンクリートの数量が求められます。
図面から、柱、梁、壁、スラブ(床)、階段とブロック分けをして立方体として計算します。
壁に開口部があれば、その分を差し引いて合計を求めます。
最近ではCADデータからコンクリートの数量が算出出来たりします。
なので、おおまかな数量はそれでわかってしまいます。
しかし、新人や若手の現場監督の練習として、躯体図からコンクリートの数量を求めるのはいい方法です。
躯体図の中身を理解していないとコンクリートの数量は求められないので、躯体図を理解する勉強として行うといいでしょう。
ちなみに、建設現場では、数量を求める事を、「拾い出し(ひろいだし)」と言います。
上司から、「2階のコンクリート拾っといて」と言われたら、現場のコンクリートガラを拾いに行くのではなく、「数量を計算しておいて」と言う意味なので注意しましょう。
躯体図は、平面図だけで立体的にイメージできる
躯体図を作成する時に、平面図と断面図(縦方向に切った断面)の両方を作成します。
しかし、必ず両方の図面を見ないと理解できないとなると面倒くさいですよね。
その為に、躯体図は平面図だけで立体的なイメージが出来る様に工夫がされています。
もちろん、完璧は無理なので、平面で表現できない部分を断面図で補填します。
そうする事で断面図が少なくなるので、チェックする側も図面を見る側も負担が少なくなります。
表現方法は躯体図を作成する建設会社で多少の違いはあるかもしれません。
簡単に説明すると、梁・スラブ(床)・開口の高さなどの平面では表現できない部分を専用の枠を作り、そこに数値だけを記入して表すというものです。
言葉だけでは説明が難しいので、またの機会に詳しく説明をしたいと思います。
まとめ
躯体図は、鉄筋コンクリート造の建物にとって重要な役割を果たします。
なので、躯体図の作成にたずさわる現場監督は、建物の全体を理解出来る人ではないと出来ません。
新人や若手には簡単には回ってこない仕事です。
しかし、躯体図がどんな図面で、そこに何が表現されているのかは早々に知る必要があります。
まずは、「何故その数値、その形状になっているのか」を理解するよりも、「この躯体図には、ここがこの数値になっていて、こういう形状の躯体が表現されている」という読み取る能力を養いましょう。